コラム

COLUMN:

クロヒョウはいるけどクロチーターはいない

図鑑を開けば真っ先に目を引くのが、草原を切り裂くように走るチーターの姿。圧倒的に速く、わかりやすく強そうで、それでいてしなやか。その存在は理屈というより身体感覚に直接訴えかけてくる。多くの男の子は一度は心を奪われたことだろう。

チーターは地上最速の哺乳類として知られている。
短距離であれば時速110km〜120kmに達し、わずか3秒程度で時速100kmまで加速するらしい。100m走のタイムはチーターは3秒、ボルトは9秒58なので、とんでもない速さなのが分かる。

ところで、チーター、ヒョウ、ジャガーは見た目がとても似ている。
黒い斑点模様、しなやかな体躯。並べて見なければ見分けがつかないという人も多いと思う。しかし、よく観察すると違いは分かりやすい。(小さな頃に動物図鑑を見ていた男の子は分かるはず)

チーターは明らかに小ぶりで細身。斑点もロゼット状ではなく、単純な黒点だ。そして目の下には、涙の跡のような黒いラインがある。これは、日中の強い光の中で視界を保つためだといわれている。

面白いのはヒョウやジャガーには、いわゆるクロヒョウ、ブラックジャガーと呼ばれる黒変種が存在する。しかしチーターにはクロチーターが確認されていない。

理由ははっきりと解明されているわけではないらしいが、チーターの生態を考えると想像はつく。チーターは昼間の草原で狩りをするが、ヒョウやジャガーは主に夜行性で暗い森林にも生息する。

昼間の環境では、黒い体毛は目立ちやすく、さらに黒は熱を吸収しやすい。短時間で大量のエネルギーを使い、体温が急激に上がるチーターにとって、黒い体は不利だった可能性がある。夜行性で暗い森林にも適応するヒョウやジャガーとは、そもそも求められる条件が違ったのだろう。

同じネコ科でも設計思想が全く異なるのが興味深い。

チーターは極端に特化した存在だ。速さにすべてを振り切った結果、体は華奢で、長時間の戦いはできない。ライオンやヒョウに獲物を横取りされることも少なくない。その生き方は、どこか事業やプロダクトの生存戦略にも似ている。ひとつの強みに全振りする代わりに環境が変わると脆い。

現在、チーターの個体数は世界的に減少しているらしい。
アジアチーターは絶滅寸前、アフリカのチーターも安泰ではないらしい。かつてアフリカ大陸の広い範囲に生息していたチーターは、生息地の分断や農地開発、道路やフェンスの増加によって行動範囲を奪われ、個体数はこの100年で大きく減ったとされている。

チーターの生き方は、ひとつの強みにすべてを賭ける戦略だ。圧倒的な速度を手に入れた代わりに、持久力や防御力を捨てている。その結果、獲物を奪われやすく、環境が変われば一気に不利になる。

これはビジネスにおける戦略設計にも似ている。ひとつのKPIに極端に最適化されたプロダクトや、1点突破の強みを持つ組織や事業は、短期的には強い。しかしその前提が崩れた瞬間に脆さが露骨に出てくる。

現代の市場は変化が速い。その中で、チーターのように一点突破で勝ち切るのか、ヒョウのように環境に溶け込みながら生き延びるのか。どちらが正しいかではなく、どの前提に賭けるかの問題なのだと思う。最適化された世界は、特定の最適化に適したものだけを残していく。問題はどの前提に最適化していくかなのだろう。

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