コラム

COLUMN:

「郡上ブランド戦略2025」 | 郡上の未来を考えてみた

夏、郡上市に帰省した。コロナ禍を挟み、盆も正月も帰れない年が続き、久々に町にゆっくり身を置いた。八幡の町並みは変わらず美しく、川面を通る夜風は心地いい。白鳥・高鷲の山々は深い緑に覆われ、大和でちょっとした買い物をするのも懐かしい。静かで、穏やか。時間が止まったようなこの町のリズムを懐かしく感じていた。

一方で、視界の端に増えた空き家や閉まったシャッターも気になった。東京への帰路で「郡上はこのままで大丈夫だろうか」とぼんやり考えていた。

|数字が示す悲しい未来

あらためて郡上の人口推移を調べた。2025年現在、郡上市の人口は約37,000人。子どもの頃は「郡上は5万人の町」と教わった記憶がある。その後、4万人台に落ちたのは知っていたが、いつの間にか3万人台になっていたことには驚いた。1995年から30年で30%以上の人口減。推計では2040年に3.2万人、2050年には2万人台に入る。しかも減少カーブは累積で加速するので、一定のしきい値を超えると推計試算よりも速く減少する可能性は高い。

郡上市の歳入に占める市税はわずか約17%。全国平均の半分程度。高齢化率は既に38%超、2040年には45%に達し、医療・介護は急増する。しかし、道路、上下水道、除雪、公共施設は人口が減っても変わらず発生し、一人当たりの負担はむしろ増える。

今年の春に長良川鉄道は一部区間の廃線を視野に入れた協議がついに始まった。移動弱者の増加とともに町の経済循環はさらに細る可能性がある。

|郡上を逆算で再設計する

限られたリソースをどこに再配置し、何を守り、何を捨てるか。郡上の人口が2万人台になることを視野に入れて郡上市の成長戦略を考えてみる。今回はあえてドラスティックな戦略・計画を考えてみることで、今後の議論の幅を意図的に広げたい。

郡上の未来を逆算で設計するなら、コンパクトシティ化を土台に、都市機能を以下の3つに分けるのが筋が良いように思う。

① 八幡:「郡上ブランド輸出の都」にリデザイン

八幡は単なる観光地ではない。郡上踊り、食品サンプル、郡上本染、鮎、踊り下駄。個別に見ればバラバラでも「郡上らしさ」という物語で繋がっている。佐藤可士和が提言した「日本ブランド戦略2020」でも、統一ブランドの下にカテゴリ別の強みを束ねるポートフォリオ型が重要だとされた。郡上も「GUJO BRAND」という大きな物語を据え、その下にモノ(食品・工芸)と体験(踊り・染め・自然・食)を整理し、国内外の富裕層市場に輸出する。

A) 郡上ブランド:「モノ」輸出戦略

明宝ハムや鮎加工品、明宝トマトケチャップは国内で既にブランドを確立している(明宝を広域八幡エリアとして捉えている前提)。これをドイツの食肉見本市やパリのサロン・デュ・ショコラで「GUJO GASTRONOMY」として展開し、少量高単価の市場に入れ込む。また、燕三条がMoMAでカトラリーを売り単価を5倍にしたように、食品サンプルを「食のオブジェ」として欧州のセレクトショップに持ち込む。郡上本染は既にパリで高評価を受けており、ストールやインテリアに再構築し高価格帯で販売する。踊り下駄は旅館履きからクラッチシューズに翻訳し、ロンドンのショールームに置く。これらを八幡の地域商社で一元管理し、TSUBAMEやT-Toyamaのようにパリ・NY・シンガポールに常設ギャラリーを出すところまで持っていけると理想的だ。

B) 郡上ブランド:「体験」輸出戦略

郡上踊りはタンゴのように「学びに来る」体験産業にできるはずだ。世界には5日間50万円のタンゴ合宿に人が集まる例もある。郡上踊りを夏だけのイベントに留めず、オフシーズンに郡上踊りキャンプ(踊り×染め×発酵食)としてパッケージ化する。町家ホテルやDMOが収益を受け、現在の八幡の市役所や高校、病院の土地の一部は地域へのリスペクトのあるブランドホテル・高級旅館を誘致して再開発し、八幡の慢性的な宿不足を補う。市役所機能は大和に移し、八幡は郡上ブランドを体現する「滞在と学びの都」にする。

今年から郡上おどりが投げ銭をスタートして話題になったが、非常に良い取り組みだと思う。投げ銭で幅広く寄付を募るとしたら、体験産業は特定顧客に対して高付加価値高単価のサービスを提供していくイメージだ。エンゲージメントの高いファンを増やしてLTV最大化を狙いたい。できれば顧客データもCRMなどでしっかりと管理して、また訪れたくなるようなコンテンツの発信を定期的に行いたい。

② 白鳥:リゾート・移住・テレワーク特化で外貨を稼ぐ

白鳥・高鷲エリアは郡上最大の自然資産だ。長良川源流の透き通る渓流、大日ヶ岳や野伏ヶ岳などの山々、葛飾北斎もモチーフにした阿弥陀ヶ滝。石徹白には移住者が増え、自然の中で仕事やものづくりを続ける人々が根を下ろし始めている。冬は高鷲スノーパーク、ダイナランド、鷲ヶ岳、ホワイトピアが連なり、国内有数のパウダースノーに数十万人が訪れる。白馬村は人口9千人でインバウンド200億円、別荘からの固定資産税が村を支えているとされる。白鳥でも坪単価35万円で別荘地を計画的に造成し「岐阜の軽井沢」としてブランド化して販売し、固定資産税を20年単位で落としてもらうべきだ。

本格的なキャンパーからライトなアウトドア層までターゲットに、川沿いや林間に分散型グランピングサイトを設計する。渓流でラフティングやSUPを楽しみ、スキーリフトは夏はMTB専用に切り替え、四季を稼働させる。さらにテレワークとも親和性が高いサウナや貸切温泉、テレワーク施設を増やし、都市富裕層が「働きながら整う場所」として長期滞在する仕掛けを作る。

野村総研の調査では、年収1200万円層の20%が「郊外で暮らしたい」と答えている。そこで白鳥・高鷲に通信会社と協力して光5Gbpsやスターリンクを局所的に導入し、「日本一ネットが速く安定したテレワークの町」に仕立てたい。軽井沢が週70万円で売る英語×自然体験プログラムを白鳥でも展開し、英語教師+スキー+川ガイド+郡上踊りを組めば、都市ファミリーが数週間単位で滞在し、そのまま二拠点を持つ。通信の安定と速度と、加えてスタートアップ優遇措置で新しいスタートアップや企業を誘致することも視野に入れる。

③ 大和:郡上の「暮らしの心臓部」に据える

八幡は歴史を守り土地も少ない、白鳥は除雪コストが重い。だから行政・医療・教育の核は大和に集めるべきだ。郡上の中央に位置し、高速ICから市街へのアクセスも良く、八幡や白鳥からの通院・通学負担を最小化できる。市役所機能を大和町役場周辺に統合し、市役所を中心に、100床規模の病院を整備、さらに保育園と中高一貫校を周囲に集約し、暮らしの安心をコンパクトに密集させる。長良川鉄道が仮に廃線になっても、EV小型バスやMaaS、自動運転シャトルでこの拠点と各集落を繋げば、生活動線は十分に維持できる。トヨタ自動車などと組んで、地方MaaSのモデル地区にしてしまう。富山は郊外の病院や学校を統合し、EVバス等でつなぐことで年間30億円規模の維持費を浮かせた。郡上でも同様に医師給与や設備更新コストを3億円単位で抑制し、その分を「保育料完全無料」「高校まで医療・給食費無料」「子ども食堂ネットワーク」に回すべきだ。

徳永を日常の買い物(商業)と行政の街、剣を教育の街、高速の出入り口が近い島と名皿部を市内総合病院と介護、企業オフィス誘致エリアにコンパクトにゾーニングする。さらに、地元の木で建てる「木の幼稚園」や森と一体化した「森の保育園」をつくり、郡上の自然の中で子どもが土に触れ、川に親しみ、木に囲まれて育つ環境をつくりたい。単なる集約ではなく、郡上の静けさや豊かさを次の世代が体に刻み込む場所にする。これが未来の郡上に人が帰ってきたくなる最大の理由になるはずだ。

さらにこの中高一貫校には、郡上ならではの自然を生かした環境教育や、食品サンプルや郡上本染、木工、鮎漁といった地域の手仕事や食文化をテーマに、企画からマーケティング、デザイン、販売までを実際に体験するプログラムなども組み込みたい。地元の事業者と連携し、課題解決型の授業やインターンシップを通して、ものづくりや地域資源をどう次の世代につなぐかを学ぶ場にする。さらに都市部や海外の人材ともつなぎ、国際プログラムやテクノロジー教育を取り入れれば、郡上に暮らすこと自体が最先端に触れながら豊かな自然と文化を享受できる価値になる。この場所で育った子どもたちが、いつか外へ出てもまた帰りたくなる理由になるはずだ。

|農・食のプレミアム化で郡上全域を潤す

郡上は八幡や白鳥だけでなく、明宝や和良、美並エリア、さらには石徹白や母袋などの地域を含め、広く小さな谷や里山が点在している。その中で郡上は元来、豊かな水資源と寒暖差を活かした農業、林業が強みだった。これを単に維持するのではなく、思い切って「少量高単価のプレミアム農産地」へ転換する戦略だ。

ワインでいえばフランスのブルゴーニュは村単位で銘醸地がブランド化されている。郡上でも例えば和良の鮎、明宝のトマト、石徹白の米や野菜といった地名をラベルに掲げ、郡上全域を「テロワール」としてプレミアム化する。すでに和良鮎は日本一とも呼ばれ、ミシュラン店のメニューで高値をつける。これを郡上ブランドの中核にすれば、八幡の商流に流し込むだけでなく、白鳥のリゾートや大和の市場を介して、町全体で付加価値を享受できる。

さらに発酵、ジビエ、林業も重要だ。郡上は雪国型の発酵文化が根強く、味噌、漬物、山菜の加工などは「発酵ツーリズム」として世界市場で受け入れられつつある。ジビエはこれまで地域負担だったが、欧州ではラグジュアリー食材。これを地域主導で加工・熟成し、八幡や白鳥の高付加価値レストランの武器にする。

こうした農業・林業・食文化を郡上市単体で完結させるのではなく、例えば「GIFU TERROIR」として商標化し、岐阜の他地域(飛騨の山椒、関の刃物、美濃の和紙)と合同ブランドで輸出する枠組みに入れば、郡上単体でブランド構築にかかるコストやリスクも抑えられる。

|最後に:精神的な豊かさと文化が続く郡上の未来のために

郡上の人や、郡上の関連人口にあたる人は、郡上の何を守りたいだろうか?僕は、川の音、下駄の音、人の温かさ、豊かな自然、健全な森林と田畑、文化と仕事、そして何よりたくさんの子どもの笑顔が、100年後もこの町に残っていることが大事だと思う。

だから子育てを経済的に守るのは、単なる福祉ではなく最大の投資とも言える。地方創生臨時交付金などで光回線やテレワーク拠点を整備し、地域再生計画を立案しコンパクトシティ認定を取り、交付金の補助率を上げる。過疎債などで病院を統合し、その70〜80%を交付税で補填する。郡上本染や食品サンプルは地域資源活用促進法を活用して海外販促し、八幡をDMO(観光地域づくり法人)に格上げし、年間3000万円~4000万円程度の国費補助を活用してブランド輸出を強化する。子育て支援への投資は、Uターンはもちろん、軽井沢や御代田、徳島の神山町のように、郡上へのIターンも見込んでいる。

町の未来は、市役所の一決裁、市議会の一票、その背中を押す市民の声で決まる。郡上がもっとコンパクトになっても、悲しさからくる静けさではなく、豊かな静けさが存在し、人が集まり、踊りやアウトドアや観光を楽しむ町であり続けるように。そういう未来を選ぶために、今こそ本気で逆算し、未来に向けて動き出す時だと思っている(一方で、郡上に住んでいない自分がそれを言うのは無責任でもあるのだが)。

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