コラム

COLUMN:

「戦略」とはなにか

「事業戦略」「経営戦略」「成長戦略」「マーケティング戦略」「ブランド戦略」「デザイン戦略」。

ビジネスの世界でもデザインの世界でも、「戦略」という言葉は当たり前のように使われている。しかし、本当の意味で戦略を立て、持続的に実行できている組織やプロジェクトは、実際にはそう多くないのではないかと思うことがある。

そもそも戦略とは、限られた経営資源をどの市場機会に、どのように投下するかを決めるための、極めて実務的な経営上の選択だ。多くの場合、戦略は壮大なスローガンのように語られ、抽象度の高い話として曖昧に扱われることもあるが、その本質は超シンプルだと思う。どの勝ち筋を選び、どのように資源を配分し、その選択をどう組織の隅々まで貫通させるか。戦略とは結局、この一連の意思決定を一貫性をもって設計し、執行する営みにほかならない。

僕はこれまでの様々な仕事で、戦略とは「どこで戦い、どう勝つかを決める選択」と繰り返してきた。物事には常にトレードオフがある。だからこそ「何をやらないか」をはっきり決め、限られた資源をレバレッジの効く領域に大胆に投下する必要がある。言うは易く行うは難しで、実際に大きな選択をする際、またはリソースを引き剥がす場面、その難しさを痛感することもある。「選択と集中」という言葉はよく使われるものの、リソースの引き剥がしが曖昧になったり、資源の投下が分散しているケース(集中ができてない)も実際には多い。

加えて、戦略を単なる綺麗な理屈やスライドに留めず、実際に現場の行動を変えるものにするには、組織の行動原理にまで落とし込む「明確な言語化(および数値化)」が欠かせない。例えば、インセンティブ設計や権限委譲の仕組み、迅速な意思決定を支えるレポーティングライン、優れたKPI設計(実際はKPIを羅列しているだけの組織や人がほとんどだ)。これらの「ハードな組織デザイン」と「ソフトなカルチャー」を戦略と整合させる作業は非常に地味だが不可欠で、ここを怠れば、どれほど精緻な戦略も単なる願望に終わると感じる。

さらに重要なのは、戦略を単一シナリオの「未来予測」と捉えないことも重要と感じる。むしろ不確実な市場環境において、複数のシナリオに耐えうるリアルオプションを持ちながら、どの局面でも持続的に競争優位を築くための指針と位置づけるべきだろう。本質的には、戦略は「未来を当てる」ためではなく、「自らの手で未来を形成していくための仮説と意思決定の体系」である。(未来予想的に使われることが多い..)

実際の企業事例を見ても、それは明白だと思う。

P&Gは、かつて世界で300以上(広義には3000超とも言われる)のブランドを展開していた。しかし2014年、大規模なポートフォリオ再編を決断。約100の低収益ブランドを売却・廃止し、70~80ブランドに集中する計画を発表した。結果として2019年までにGilletteやPanteneなど上位70ブランドが売上の約90%、利益の約95%を占める体制が確立した。

この戦略により、全社の営業利益率は2014年の約18%から、2023年には約23%へと大きく改善した。また同期間で年間の総販管費率は売上比で減少し、よりスリムな組織構造を築いた。

Amazonもまた、AWS、Prime Video、広告事業など多角的なポートフォリオを保有しつつ、その裏で物流・配送インフラへの巨額投資を継続してきた。Amazonの資本的支出は2013年に約37億ドルだったのが、2022年には約600億ドル規模(約16倍)にまで増加したとされている。このうち特にフルフィルメントセンターやラストマイル輸送網への投資が大きく、特に北米ではAmazon自社便配送比率が2023年には約75%に達し、UPSやFedEx依存を大幅に下げた。

これらは固定費を先行して抱え込む構造とも言えるが、需要が乗れば乗るほど単位配送コストが減少し、スケールメリットを享受でき、競合が容易に追随できない物流基盤を構築したとも言える。これにより、「当日配送」や「翌日配送」を低コストで維持する長期的な優位性が確立されている。

これらはいずれも「どこに経営資源を集中し、何を選ばないか」を極端でクリアに定義し、それを組織体制や資本配分に具体的に落とし込んだ好例だ。

あらためて、戦略とは、有限の資源をどこにどう配分するかを選び、その選択を組織に徹底させるための設計図である。そして、それは単に未来を当てるためのものではなく、不確実な市場の中で選択肢を持ち続けながら、自分たちの手で未来を作っていくための「意思」のカタチだと強く感じる。