2025.07.21
日本のポートランド「富山」の魅力
学生時代、オレゴン州・ポートランドを訪れた。アメリカを巡る旅の途中で、暮らしの質を軸に構成される都市に特に興味がある頃だった。カフェに腰掛け、川沿いを歩きながら、ゆるやかで豊かな時間のなかに身を置いていた。
僕は富山をよく「日本のポートランド」と表現する。多くの人にとってピンとこない表現と思う。そもそも、ポートランドと富山の両方に行ったことがある人も少ないし、若干難しい観察と類推が入っているのでそれも分かる。以下に似ている要素を整理してみようと思う。
1.都市と自然の距離
似ていると感じる理由は、都市を構成する要素。「都市」と「自然」の距離の近さだ。富山もポートランドも「海・山・川」が都市の生活圏に非常に近い。ポートランドはハイキングやアウトドアが日常の延長にある。富山は立山連峰をはじめとする壮大な自然に囲まれ、自然へのアクセスも良い。どちらも都市生活と自然体験がゆるやかに繋がっている。
2.ローカルでクラフトな食カルチャー
加えて、ポートランドはクラフトビールやクラフトコーヒー、ドーナツなどのローカルな食のカルチャーがある。富山もまた、魚介や薬膳など独自の食文化が根づき、近年はロースターやベーカリーなど、クラフト志向の小商いが増えている。
3.丁寧なものづくり精神と伝統工芸・クラフト文化
地域資源を活かした「丁寧なものづくり」の精神も共通している。ポートランドはZine文化・印刷・アート、アーバンクラフト、ハンドメイド・クラフトマーケットが有名だ。富山も伝統金属工芸やガラス工芸、薬都としての製薬文化 × パッケージデザイン、越中和紙などの地域資源を活かしたクラフトがある。
4.大都市からの距離感と自立したカルチャー
ポートランドは、シアトルやサンフランシスコと比べると「端っこの都市」ではあるけれど、自立したカルチャーがあり、移住者やクリエイターに愛される独特の空気がある。富山も東京や大阪から距離がある一方で、独自の美意識や住みやすさがあり近年はUターンや移住先としても注目されている。
5.コンパクトな都市インフラ
ポートランドはトラムなどの公共交通が整っており、まちのスケールも歩きやすく「人のスケール」で設計されている印象がある。富山もまた、LRT(ライトレール)や公共空間の設計が比較的丁寧で、都市のあり方に意識の高い人が多いように感じる。
そもそも、ポートランドが注目された背景には、全米トップクラスの移住人気と、「住みたい街」の評価が常連だった都市であることもある。毎週数百人が移住し続ける街、コンパクトでサステナブル、才能が集まるクリエイティブな枠組みが築かれていたからだ。特に2010~2016年頃がムーブメントのピークだったように思う。
また、ポートランドという都市が日本で注目されるようになったのは、2010年に出版された吹田良平氏の著書『グリーンネイバーフッド』も大きかったように思う。
この本では、ポートランドを「環境先進都市」「人間中心の都市設計の実験場」として捉え、エコディストリクト、グリーンストリート、住民参加型のまちづくり、都市と自然の接続といった先進的な都市政策を人中心の視点で紹介している。まだ日本では「サステナブルなまちづくり」や「ローカルと都市計画の融合」が十分に語られていなかった時代に、この本は一歩先を行く具体例としてのポートランドを提示し、都市計画・ランドスケープ・建築・まちづくりの領域で影響を与えたように思う。
富山にも、そんなポートランド型の都市構造の兆しがあるように思う。富山といえばコンパクトシティ。メルボルン・バンクーバー・パリ・ポートランドと並び「コンパクトシティ先進モデル」として評価された実績もある。これは単なる都市縮小ではなく、LRTによるまちのグリッド整備、中心市街地の地価下落防止、転入超過など、具体的な都市経営の成果として現れている。
富山の街並みも素敵だ。TOYAMAキラリ、富山県美術館のような公共建築、世界一美しいスタバで有名な環水公園のスターバックス。薬膳カフェや地場ロースター、クラフト寄りの小店舗。扇一のます寿し、スパ・アルプス、きときと寿しに番やのすし。工芸と文化、新旧の食や暮らしが適度に混ざり合っう。
そこに、「地元の誇り=自立性」が漂う。ポートランドのDIY精神、ブランド力と比べると弱いかもしれないが、富山は「内発的な更新」を自然体で繰り返しているように思う。東京や大阪のような「中心を基軸にした拡張」ではなく、都市と自然、人と都市、文化と暮らしが共鳴するように都市を更新している。
これからの日本の都市の評価は、「どれだけ大きいか」から「どれだけ質があるか」への転換が必要だと感じる。人口密度や経済規模ではなく、どのように人々がまちと自然と対話して暮らすか。多様なライフスタイルの選択肢が許され、自然との連続性が担保されるかどうか。富山はその新しい物差しへのロールモデルとして機能しているように思う。
日本のポートランド、富山。この言葉はただの比喩ではない。富山市やその周辺にある環境や文化への敬意を込めて、そして何より富山が持つ都市としての魅力やポテンシャルを、もっと広く伝えていける、ブランド化できるはずだという思いを込めて、あえてこのアナロジーで語っている。