2025.02.25
“リブランディング” をしたがるデザイナーたち
リブランディングという言葉を聞く機会が、日本でもずいぶん増えた。けれど実際に行われているのは、「見た目を大きく変えること」に留まっているように思う。ロゴを刷新し、ブランドカラーを鮮やかな色に塗り替え、Webサイトを今っぽくする。けれど、その変化にどれだけの奥行きがあるのかというと、少し心許ないケースも少なくない。
そもそもリブランディングとブランドリフレッシュは厳密には異なる行為だ。前者はブランドのアイデンティティや市場でのポジションを根本から再定義することであり、後者はブランドの核は保ちながらも、時代に合わせて視覚や体験を調律しなおす行為だ。けれど日本では、その線引きはあいまいで、どちらも「なんとなく新しくすること」と同義で語られがちな印象がある。
一方で、欧米の企業が行うブランドリフレッシュには、もう少し異なる性質がある。たとえばBURBERRY(バーバリー)が近年のアップデートで試みたように、新しいアートディレクターを迎え、グラフィックやトーンを洗練させながらも、ブランドの核にある“ブリティッシュネス”やヘリテージを丁寧に引き直すような姿勢が感じられる。BURBERRYが行ったのは、変えるというより、整えるという行為に近かった。実際、一時期は多くのハイブランドがサンセリフ体へロゴを統一する潮流の中でBURBERRYもサンセリフ体を採用したが、再びセリフ体に戻した背景には、単なるトレンドではなく、自らの歴史や文脈を再考した意志があったように見える。
日本企業は「変えたこと」を強調したがる傾向があるのに対して、欧米企業は「変わらずにいること」をどう見せるかに長けている気がする。たとえばフィンランドのマリメッコ。彼らは何十年も前のアーカイブデザインを新しい文脈で蘇らせながら、商品開発や店舗空間を更新し続けている。無理にロゴを変える必要はない。けれど、見るたびに現代的な状態に調律されている印象がある。15年以上前から表参道のマリメッコの店舗に足を運んでいるが、最近のマリメッコはトラッドな印象を担保しつつも、モダンでモードな佇まいも同時に纏っている。
もちろん、リブランディングがいけないわけではない。企業も組織もブランドも、人と同じように変わっていくべきだと思う。ただ、その変化にどれだけ理由や意思があるのかという点はとても大きい。ポルシェの911のように、半世紀以上にわたり同じシルエットを守りながらも、インテリアやUXは着実に更新し、常にドライバー体験を現代的に調律し続けるブランドのやり方もある。ロゴを変えずとも、細部の設計や提供価値を変えることで、ブランドは刷新され得るのだ。
ビジュアルが整っていても、振る舞いや言葉のトーン、プロダクトの思想に旧態依然とした空気が残っていれば、どうしても表層的な印象は拭えない。実際、表層的なリブランディングプロジェクトは今でも日系スタートアップ界隈でよく見かけるし、それをデザイナーやデザイン組織が様式美のようにプロセスをそれっぽく並べ立てているのを見ると、その意味や持続性に疑問が残ることがある。
これは、外部からのブランディング支援の現場でもよく感じることだ。デザインや巧みな言葉、モーショングラフィックスでロゴを動かし「刷新感」を演出すること自体は技術的に難しくない。けれど、実際に社内の空気や意思決定の構造が変わらなければ、ただのビジュアルのアップデートに終わる。合意形成のためにワークショップを開いたり、ヒアリングを重ねたりしてプロセスによる納得感を演出することも可能だが、本質的な変化に繋がっていないことも多い。
リブランディングとは、本来単なるリニューアルではなく、企業がこれからどういう態度で社会と関わっていくのかを改めて見直し、明確に表明する行為でもあるはずだ。なんでもかんでもリブランディングというフレームに当てはめるのではなく、時には「変わらずにいることをどう見せるか」に挑むブランドリフレッシュの選択肢が、日本でももっと自然に選ばれるようになればいいと感じる。