コラム

COLUMN:

ビジネス視点で捉える D2C 企業のこれから

「広告を増やしても売上は上がるけど利益が横ばいでさぁ」


とあるD2C創業者と話したときに出た言葉だ。プロダクトの評判は悪くない。認知もある。SNSのフォロワーも着実に増えている。それでも次のステージに届かない。日本でD2Cが継続的にスケールした例は、確かにまだ多くない。なぜだろうか。

僕が見てきた限り、その理由は大きく三層に分かれると感じている。市場規模と文化要因、構造コスト、そして組織設計の3つだ。

第一層は「市場と文化」だ。日本の人口規模は米国の約3分の1。可処分所得も横ばい、しかも消費者は価格と比較検討に敏感だ。海外D2Cが想定するサブスクリプションモデルや爆発的LTV成長は、日本の購買習慣と必ずしも重ならない。加えて、実店舗で手に取る安心感を重視する土壌が強く、EC完結型の訴求だけではリーチが頭打ちになる。

第二層は「構造コスト」だ。D2Cは直販ゆえに中間マージンを省くと言われるが、実際には広告費と物流費が中間マージンの代わりに重くのしかかる。特に国内配送は一件当たりの単価が高く、送料無料を打ち出せば利益が削られ、送料を上乗せすれば転換率が落ちる。広告に関しても、ここ数年でSNSのCPAは倍以上になったケースが珍しくない。結局「直接届ける」ためのコストが、卸を挟む構造と大差なくなることさえある。

第三層は「組織設計」だ。立ち上げ初期は、創業者の熱量と少数精鋭で駆け抜けられる。しかし受注が増え始める頃、カスタマーサポート、在庫管理、数値分析、法務といった領域が一気にボトルネック化する。ここで仕組みを作る余裕がないまま、属人的な運用で拡張を試みると、顧客体験が劣化し、リピート率が鈍化する。結果、広告投資が回収できず、財務が細る悪循環に陥る。

これら三層は互いに絡み合い、単独の施策では解消しにくい。だからこそ、「D2Cで成功した海外事例を輸入する」だけでは、国内で再現しづらいのだと感じる。

では、打開の糸口はどこにあるのか。僕の仮説はとってもシンプルで、D2C特有の熱量」を核に立ち上げ、「構造」を外部と分担し、「文化」に合わせてタッチポイントを増やす。これを段差なくシームレスにつなぐことだと思っている。

① 熱量で立ち上げる:ブランドの核となる物語や体験を自前で磨き、初期顧客を獲得する段階では垂直統合的動きが有効(D2Cモデルの得意な領域)。

② 構造を分担する:一定規模以降は内製に固執せず、物流、CS、システム運用などを専門パートナーと協業し、変動費化する。

③ 文化に合わせて接点を増やす:ポップアップや小規模リテールを織り交ぜ、オンラインとオフラインのハイブリッドで顧客接触を深める(日本市場では特にEC特化が難しいのでリアルな接点を意識的に作りに行く)。

これらを計画的に段階移行できるかどうかが、日本でD2Cをスケールさせる鍵になる。広告投下量を増やす or 減らすだけではなく、事業 P/L の重心をどこに置くかを再設計しない限り、日本の D2C は一定規模で頭打ちになると感じている。事業 P/L の重心をどこに置くかに関しては、P/L の「一番重い費目」を正確に把握し、フェーズごとに動かせるかを検証するとか、固定費と変動費の境界を契約・パートナーリングで可変化し、リスクを平準化するとか、粗利を「広告依存」から「LTV依存」へ移行する仕組みを早期に組み込むとか、そういった議論や戦略が必要になってくると感じている。