コラム

COLUMN:

地球を株主にしたブランド「Patagonia」とはなにか

学生時代にパタゴニア日本支社でアルバイトをしていた(詳しく書くと長くなるので今回は割愛)。

「Don’t Buy This Jacket」「地球が私たちの唯一の株主」。こんなコピーで知られるパタゴニアは、年間13万件を超えるリペアを世界中で行い、修理や再活用のプログラムをビジネスの重要な柱に据えている。約50年前の創業以来、環境へのコミットを一貫して打ち出してきた歴史が、ブレのない信頼感となってパタゴニアの人気を支えているように思う。

以下、パタゴニアの取り組みを備忘録的に整理してみる。

① 製品とデータ

リサイクル素材比率:2024年時点でポリエステル製品の97%がリサイクル由来。新材料を3%に抑え、年間CO2排出を推計7,400トン削減(同社環境報告書)。Worn Wear:2023年度のリペア実績は135,000件。再販品の粗利は平均48%で、正規品並みのマージンを確保。返品率:アウトドア業界平均6〜8%に対し、パタゴニアは4.2%(米国EC部門)。耐久性が数値で裏付けられている。

② 株主構造を変える

2022年、創業者シュイナード一族は全株式を環境NPOの「Holdfast Collective」と「Patagonia Purpose Trust」に移管。年間純利益約140億円(2023年)を配当ではなく環境活動資金に充てる仕組みができあがった。その結果、寄付累計は2024年で14億ドル超、IRR(内部収益率)を追わない代わりに離職率は業界平均12%に対し5%台、ブランド好感度調査では米国700社中1位を維持し、広告費は年売上のわずか0.5%(一般的には5-10%、ブランド好感度調査:Morning Consult 2024)

③ 広告を広告にしない

2018年、トランプ政権の国定公園縮小に対して「The President Stole Your Land」と公式サイトを黒塗りに変え提訴を宣言。このときTwitter上の #Patagonia は前年比400%増拡散、広告出稿ゼロでその週の売上が15%上がった。パタゴニアは政治的な立場を取ることで、あえてリスクを取り、そのままユーザー生成コンテンツ(UGC)を引き起こすトリガーをつくった。

④ 数字が示す好循環

原則としてほとんどのリテールストアのビジネスは「売上=客単価×購入頻度×顧客数」だが、パタゴニアは購入頻度を意図的に高めず、単価と新規顧客数を少しずつ伸ばして成長を維持する戦略を取っている。顧客数は年5%増、リピート率は60%前後。長持ちする商品と積極的なリペアで買い替え需要を抑えながらも、それを上回る新たな顧客流入がブランドの物語に引き寄せられている。だから成長は鈍化しない。

パタゴニアの人気が長く続くのは、「消費=責任参加」という仕組みを、財務レベルで証明してきたからだろう。それは単なる好感度を超え、ファンシップや共犯感覚のようなものを育てているように思う。顧客体験や自己表現で魅了するNIKEやAppleなどのブランドとは違い、パタゴニアは「責任や連帯感」で人々を巻き込むブランドとも言える。単にブランド力が高い企業として並列することもあるが、ブランド企業を詳しく分解してみると、はじめて見えてくる輪郭がある。これからも問い続けたいテーマのひとつだ。