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D2Cビジネスモデルの「落とし穴」

—— 失敗事例と限界をデザイナー目線で読み解く ——

ここ数年で「D2C=次世代の勝ちモデル」という空気が一気に広まりました。しかし 2024〜25 年にかけては、上場後に失速したブランドや VC からの資金調達が難航するケースが相次ぎ、「純オンライン直販モデルだけでは限界があるのでは?」という議論が活発になっています。
デザイナーはロゴやパッケージの見た目を整えるだけでなく、ビジネス構造そのものが抱えるリスクを理解した上で、どこにデザインリソースを集中させるかを判断する立場にあります。

1. CAC(顧客獲得コスト)の爆発

  • Meta・Google広告費の高騰で1人獲得あたりのコストが平均 2〜3年で約1.7倍に上昇。売価を据え置けば粗利が一気に圧縮され、クリエイティブ更新のサイクルも短期化するため、デザイナーの負荷は指数関数的に増える。​

2. 単品主義のユニットエコノミクス崩壊

  • マットレス専業の Casper は「一商品・直販」のモデルでスケールしきれず、IPO後わずか2年で非公開化。1枚売るごとに約300ドル赤字という状況まで追い込まれた。単品モデルは在庫差損と配送コストの波をまともに受けるため、“デザイン=差別化”だけでは赤字を覆せない。​

3. サステナブル神話の逆風

  • “地球に優しい”を掲げて急成長した Allbirds は、24年Q4売上が前年同期 −22%で店舗も15店閉鎖。結局は卸と大型セールに活路を求め、「純D2C」路線を断念した。環境配慮素材は材料費が嵩むうえ、値引きに踏み切るとブランドストーリーが毀損する——高価格帯×大量生産の矛盾が露呈した格好だ。

4. コミュニティ疲弊とエンゲージメント維持の難しさ

  • Glossier はファンコミュニティを武器に急拡大したが、24年にリストラと経営刷新。フィードの常時更新、UGC(ユーザー生成コンテンツ)施策のマンネリ化でエンゲージメントが鈍化し、SNSまわりのクリエイティブ負荷が採算を圧迫した。​

5. 資金調達とバリュエーションの逆回転

  • 世界的な VC マネーの引き締めで、D2C向け投資は24年▲18%。特に中後期ラウンドが蒸発し、リブランディングや海外展開に必要な“デザイン投資”が滞るケースが増加している。​Business Insiderファイナンシャルエクスプレス

6. “チャネル純血主義”の限界

  • オンライン単独ではCACを吸収しきれず、卸・ポップアップ・直営店へのハイブリッド化が進行。AllbirdsやGlossierは実店舗回帰を余儀なくされ、ロゴやタイポグラフィ、パッケージの統一トーンをオフラインにも展開しなければならなくなった。ディスプレイ什器・レシート・返品ラベルまで設計対象が拡張し、ブランドシステムの維持コストが跳ね上がる。​


デザイナー視点で見える“限界シグナル”

シグナル何が起こるかデザイナーの課題
CACが急騰クリエイティブABテストが月→週単位へアセット量産体制/ガイドラインの自動化
単品依存原価率と返品率が跳ね上がるプロダクト拡張時のブランド整合性
ブランド疲れSNSエンゲージが鈍化コンテンツフォーマットの刷新と運用負荷の両立
チャネル多層化店舗什器・配送箱・アプリが同居全接点を束ねるデザインシステムの再設計
資金ショートリブラン費が削減“省コストでも世界観を守る”実装力

まとめ

D2Cは「直販だから高利益」という神話から、「体験を自前で統合する代わりに、すべてのコストとリスクも背負う」モデルへ現実化しました。

  • 勝ちパターン:プロダクト多角化+オムニチャネルでCACを薄め、ブランドシステムを拡張できた企業
  • 負けパターン:単品×純オンラインに固執し、広告費・在庫・資金調達の波に沈んだ企業

デザイナーにとっては、見た目の差別化だけでなく、**ユニットエコノミクスとサプライチェーンを理解した上で“どこにデザイン資源を集中させるか”**を判断する力が問われるフェーズに入っています。