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「デザイナー不足」は本当か?

2021 年のリモート特需では、Figma が使えれば瞬時に内定──そんな“爆買い”が現場で起こりました。ところが 2023‑24 年には大手 IT 企業で UX チームの縮小が相次ぎ、「もはや飽和では?」との声も急増。実際 UXPA 2024 調査では 35 % の組織が UX スタッフを減らしたと報告されています。​LinkedIn

本稿では 「本当にデザイナーは不足しているのか?」 をデータと現場の視点で整理し、“過不足”論争のグレーゾーンをあぶり出します。


1. グローバル統計で見る「量」の現実

職種カテゴリ23‑33 年の就業者増減年間想定求人メモ
グラフィックデザイナー+2 % と低成長21,100 件印刷メディア縮小が直撃 Bureau of Labor Statistics
Web 開発者・デジタルデザイナー+8 %(平均より速い)16,500 件SaaS・EC ニーズで堅調 Bureau of Labor Statistics
UX/UI デザイナー正規統計なし
UXPA:純増 0 %(22→24 年)
21,800 件(推計)市場は横ばい、ジュニア過多との指摘 LinkedInLinkedIn

ポイント

  • 領域で温度差:紙媒体寄りは停滞、デジタル&ウェブ系はなお成長。
  • レベルで温度差:シニア人材は依然取り合い、ジュニアは供給過多。


2. 日本市場は「デジタル偏在型の人手不足」

読み替え:グローバルで“余る”ジュニア UX を、日本企業がうまく吸収できていない「ミスマッチ型不足」。


3. “不足”と言われる3つの本質

本質現象
① スキル非対称ジュニア=過多/シニア=希少Bootcamp 卒 3 万人 vs. Sr.Product Designer 求人 3 千件
② リージョン偏在米西海岸→新興国へシフト、日本語圏は恒常的に不足米企業はインド・LATAM へオフショア、国内は採用難
③ 役割進化スピードAI・PLG 文脈で要求スキルが更新され続けるPrompt 設計/データ読解が JD に追加されジュニアが追随不可


4. AI と景気循環が生む “需給ジェットコースター”

  1. AI による作業自動化
    • バナー・ワイヤー生成は GPT & Firefly が秒処理 → 量産系タスクの需要減
  2. 逆に増える“統合スキル”需要
    • AI アウトプットの品質管理/倫理/データドリブン意思決定 → シニア需要増
  3. 景気後退→真っ先に外注カット


5. これからの採用・キャリア戦略

企業側

  • ジュニア枠:即戦力幻想を捨て、育成前提+AI活用前提でコスト最小化
  • シニア枠:プロダクト指標(ARR・NPS)連動でストック報酬を提示し囲い込む
  • 地域戦略:リモート+日本語コミュ力トレーニングで海外人材を活用

デザイナー側

  • “AI & Data” を第2言語に:Prompt, SQL, GA4 基礎で希少性アップ
  • 専門×業界ドメインの T 字深化:医療、金融、産業機器など“規制&高単価”領域へ
  • ポートフォリオはアウトカム表示:画面美より KPI インパクトを冒頭 3 行で見せる


まとめ —「不足か飽和か」は問いを立て直す必要がある

  • 数だけ見れば ジュニア UI/UX は世界的に供給過多
  • 質と場所で見れば DX を急ぐ日本企業やシニア/戦略系デザイナーは依然希少。
  • AI と景気サイクル が需給をジェットコースター化させるため、「恒常的な不足」でも「完全飽和」でもない。

結論:「不足しているのは“デザインの腕”ではなく“デザインでビジネスを伸ばす腕”」。
企業は育成と統合スキルを、デザイナーはデータ&ドメインを──この掛け算を解けるかが、次の 5 年の分水嶺です。