2025.03.04
「デザイナー不足」は本当か?
2021 年のリモート特需では、Figma が使えれば瞬時に内定──そんな“爆買い”が現場で起こりました。ところが 2023‑24 年には大手 IT 企業で UX チームの縮小が相次ぎ、「もはや飽和では?」との声も急増。実際 UXPA 2024 調査では 35 % の組織が UX スタッフを減らしたと報告されています。LinkedIn
本稿では 「本当にデザイナーは不足しているのか?」 をデータと現場の視点で整理し、“過不足”論争のグレーゾーンをあぶり出します。
1. グローバル統計で見る「量」の現実
職種カテゴリ | 23‑33 年の就業者増減 | 年間想定求人 | メモ |
---|---|---|---|
グラフィックデザイナー | +2 % と低成長 | 21,100 件 | 印刷メディア縮小が直撃 Bureau of Labor Statistics |
Web 開発者・デジタルデザイナー | +8 %(平均より速い) | 16,500 件 | SaaS・EC ニーズで堅調 Bureau of Labor Statistics |
UX/UI デザイナー | 正規統計なし UXPA:純増 0 %(22→24 年) | 21,800 件(推計) | 市場は横ばい、ジュニア過多との指摘 LinkedInLinkedIn |
ポイント
- 領域で温度差:紙媒体寄りは停滞、デジタル&ウェブ系はなお成長。
- レベルで温度差:シニア人材は依然取り合い、ジュニアは供給過多。
2. 日本市場は「デジタル偏在型の人手不足」
- 経産省試算では 2030 年に IT・デジタル人材が最大 79 万人不足。プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES
- 特に UI/UX・プロダクトデザインは DX 推進企業の 86 % が「不足」を回答。日本の人事部『プロネット』- HRソリューション業界で働く人のネットワーク
読み替え:グローバルで“余る”ジュニア UX を、日本企業がうまく吸収できていない「ミスマッチ型不足」。
3. “不足”と言われる3つの本質
本質 | 現象 | 例 |
---|---|---|
① スキル非対称 | ジュニア=過多/シニア=希少 | Bootcamp 卒 3 万人 vs. Sr.Product Designer 求人 3 千件 |
② リージョン偏在 | 米西海岸→新興国へシフト、日本語圏は恒常的に不足 | 米企業はインド・LATAM へオフショア、国内は採用難 |
③ 役割進化スピード | AI・PLG 文脈で要求スキルが更新され続ける | Prompt 設計/データ読解が JD に追加されジュニアが追随不可 |
4. AI と景気循環が生む “需給ジェットコースター”
- AI による作業自動化
- バナー・ワイヤー生成は GPT & Firefly が秒処理 → 量産系タスクの需要減
- 逆に増える“統合スキル”需要
- AI アウトプットの品質管理/倫理/データドリブン意思決定 → シニア需要増
- 景気後退→真っ先に外注カット
- 2023‑24 年の UX レイオフはコスト最適化の典型。復調局面ではフリーランス活用が加速。プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES
5. これからの採用・キャリア戦略
企業側
- ジュニア枠:即戦力幻想を捨て、育成前提+AI活用前提でコスト最小化
- シニア枠:プロダクト指標(ARR・NPS)連動でストック報酬を提示し囲い込む
- 地域戦略:リモート+日本語コミュ力トレーニングで海外人材を活用
デザイナー側
- “AI & Data” を第2言語に:Prompt, SQL, GA4 基礎で希少性アップ
- 専門×業界ドメインの T 字深化:医療、金融、産業機器など“規制&高単価”領域へ
- ポートフォリオはアウトカム表示:画面美より KPI インパクトを冒頭 3 行で見せる
まとめ —「不足か飽和か」は問いを立て直す必要がある
- 数だけ見れば ジュニア UI/UX は世界的に供給過多。
- 質と場所で見れば DX を急ぐ日本企業やシニア/戦略系デザイナーは依然希少。
- AI と景気サイクル が需給をジェットコースター化させるため、「恒常的な不足」でも「完全飽和」でもない。
結論:「不足しているのは“デザインの腕”ではなく“デザインでビジネスを伸ばす腕”」。
企業は育成と統合スキルを、デザイナーはデータ&ドメインを──この掛け算を解けるかが、次の 5 年の分水嶺です。